仕事が遅い人の科学的理由。やる気や自信の無さの克服法とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

仕事をするのが遅くて怒られたり、周囲に迷惑をかけてしまったりすると、申し訳ない気持ちになるもの。

 

自己啓発の本を必死に読んで、なんとか対応しようとする方も多いのではないでしょうか。

 

ただ、そのような本は精神論的なものも多く、人によっては合わないというケースも出てきます。

 

仕事が遅くなってしまう原因はどこにあるのか、そして、科学的にどのように対処していけばいいのかをご紹介します。

仕事が遅くなる原因はどこにあるのか

仕事をスムーズに片づけられる人と、なかなか仕事に手をつけられなかったり、作業スピードが遅くなったりする人の違いを作り出しているものとは何でしょうか?

 

それを明らかにするうえで重要になってくるのが、「チャンク」と呼ばれるものです。

 

チャンクとは、脳内で情報処理が行われる際の情報の単位(大きさ)を表すものです。

 

例えば、以下の画像を見てください。

どのように見えたでしょうか?

 

この画像を見た時に、どのような単位で情報をとらえたのかというのが、チャンクの大きさを表しています。

 

具体的に言うと、以下のような感じです。

チャンクの階層の図

 

食料品という枠でとらえたという人は、かなり大きなチャンクで情報を処理しています。

 

また、果物という枠でとらえたという人は、中程度の大きさのチャンクと言えるでしょう。

 

さらに、リンゴ、ブドウ、パイナップル・・・という具合に、個別に写っているものを細かく把握しているという人は、チャンクが小さい人です。

 

同じものを見たとしても、チャンクの大きさによって、とらえ方が変わってくるというのが分かるかと思います。このチャンクの大きさというのが、行動に影響します。

 

例えば、スーパーに買い物に行く場合を考えましょう。

 

「食料品を買いに行く」という大きなチャンクで考えていると、買うものが漠然としており、具体的に何を買ったらいいのかがハッキリしません。そのため、店に到着したとしても、何を買うのか決まるまで店内をウロウロすることになり、意志決定まで時間がかかります。

 

また、「果物を買いに行く」という中程度のチャンクで考えていると、果物売り場へ向かえばいいので、動き回る範囲はそれだけ少なくて済みます。

 

さらに、「リンゴを買いに行く」という小さなチャンクで考えていると、買う物が明確なので、欲しいものがある場所へ直行することができ、買い物にかかる時間は一番短くなります。

 

このように、具体的な行動に移るためには、チャンクの大きさを小さくする必要があります。ただ、チャンクはとにかく小さければいいのかというと、そういうわけでもありません。

 

小さなチャンクでしか物事を考えられないと、「木を見て森を見ず」の状態になってしまい、目的から外れた行動を取ってしまいやすくなってしまいます。そうなると、かえって時間がかかってしまうということにもなりかねません。

 

仕事が遅い人というのは、大きなチャンクばかり、あるいは、小さなチャンクばかりで物事を考えてしまうというように、チャンクのバランスが悪く、偏った状態になってしまっています。

 

このチャンクをどのように使いこなすのかといことが、仕事のスピードと正確さを上げるうえで重要になってきます。

 

どのような情報の単位で処理するかがポイント

偏ったチャンクの使い方をしていると、スムーズに仕事を進めることができません。

 

バランスが取れていないと、どのような問題が出てくるのでしょうか。

 

チャンクが大きい場合の問題点

大きいチャンクばかりを使う状態に偏っている場合には、以下のような問題が生じます。

 

①具体的行動に移りにくい

先ほども少し触れましたが、チャンクが大きい状態だと具体的に何をしたらいいのかが定まらず、行動を起こすまでに時間がかかってしまいます。

 

のんびりした性格の人や、夢を思い描いてばかりいるという人も、チャンクが大きい方に偏りがちで、行動を具体化することがうまくできず、ダラダラした状態になりやすくなります。

 

②受け身や他者依存的になりやすい

具体的な行動に移りにくいということは、素早い行動がどうしても苦手になってしまいます。

 

また、大ざっぱにしか問題点をとらえることができないことから、問題を詳細に分析して、的確な判断を下すというのも苦手になりやすくなります。

 

その結果、受け身になりやすかったり、他者依存的な態度を取りやすくなったりしてしまいます。

 

③机周りなどが散らかりやすい

仕事が遅い人ともなると、机周りが散らかっているということがよくあります。これも、脳内で大きなチャンクにより情報を処理していることによります。

 

ハサミ、ホッチキス、付箋紙・・・という具合に小さなチャンクで情報が認識されていれば、きっちり分けて管理するということができます。

 

しかし、文房具という大きなチャンクで認識されていると、全部がまとまって一つのものとして認識されます。そのため、細かく整理されずに、全部まとめて机の上に放り出された状態となるわけです。

 

④余計なことを考えやすい

大きなチャンクで物事を処理していると、目の前の仕事とは直接関係のない考え事が浮かびやすくなるということも起こります。

 

先ほどのスーパーの買い物の例でいうと、リンゴが欲しいんだったら、リンゴだけ買ってすぐ帰ればいいのに、果物というチャンクで考えてしまっていると、ブドウやバナナ、パイナップにまで目移りしてしまうわけです。

 

結果として余計なものまで買い込んでしまい、動作が遅くなってしまうということになりかねません。

 

企画系のようなアイデアを要求される仕事であれば、考えがどんどん出てくるというのはプラスに働きますが、事務系のような決まった内容を早く正確に仕上げる仕事の場合には、仕事の効率を下げてしまいマイナスに働きます。

 

チャンクが小さい場合の問題点

チャンクが小さいと具体的な行動に移りやすくなるものの、小さなチャンクにばかり偏ってしまうと、以下のような問題を生じます。

 

①全体を把握しないため、段取りが悪く時間がかかる

先ほども紹介した通り、いわゆる「木を見て森を見ず」の状態です。

 

仕事の全体を把握するためには、大きなチャンクでとらえる必要がありますが、それをしないと、とりあえず手をつけやすそうなところから処理してしまうということをしてしまいます。

 

そんなことをしていると、途中で必要な物が足りないことに気がついたり、二度手間が生じてしまったりして、仕事の進み具合が遅くなってしまいます。

 

②目的からずれてしまいやすい

全体を把握していないということは、その仕事の最終的な目的は何なのかが、ちゃんと理解できていないということです。

 

そのため、仕事を進めていくうちに目的からずれてしまうということも発生し、やり直しや二度手間ということになりかねません。

 

③言われたことしかやらなくなる

仕事の目的がつかめない状態になってしまうと、指示されたことしかやらないという状態になりやすくなります。

 

仕事の全体像や目的の把握ができていれば、もっといい方法はないのかを考えたり、他にどんなことをすればいいのかを自分で考えたりすることができます。

 

しかし、小さなチャンクでしか物事をとらえていないと、目先のことしか見えなくなるので、それができません。具体的に的確に指示してもらえないと動けないという状態にもなりかねません。

 

④細かいことに固執してしまう

小さいチャンクで物事をとらえていると、仕事の大枠から見れば無視して構わないような細かいことが目につきやすくなります。

 

その結果、全体を無視して細かいことにこだわり過ぎてしまい、仕事のスピードが遅くなってしまいます。

 

このため、締め切りになってバタバタし始めるということが起こってしまうわけです。

 

やる気と自信の壁になっているもの

思うようにやる気が出なかったり、自信が持てなかったりすると、仕事が遅くなってしまうものです。やる気を出せる、自信を持てるという状態にできれば、仕事もスムーズにいくはずですよね。

 

では、やる気や自信の壁になってしまっているものって、一体何でしょうか?

 

実は人間は、利得よりも損失の方を何倍も強く感じてしまうと言われています。*1

 

そのため、少しでも「無理かもしれない」という考えが頭をよぎってしまうと、その考えは頭の中で実際よりも大きく感じてしまいます。そうなってくると、目の前に高い壁が立ちふさがってくるような感じになってしまいます。

 

「損するくらいだったら、何もしないでおこう」となってしまい、やるべきことが思うように手につかなくなってしまうんです。

 

この損失回避の心理に、どう対処するのかがポイントです。

 

先ほどチャンクについてご紹介しましたが、やる気が出にくい、なかなか自信が持てないという人は、大きなチャンクで物事を考える傾向があります。大きなチャンクで考えているので、処理しきれないかもしれないと思いやすくなってしまいます。

 

そうなると、損失回避の心理がはたらいてしまい、思うように動けなくなります。

 

だから、「自分にはできる」と感じることが大事なんですね。この自分にはできるという確信は、脳科学的に見ても、行動を起こすうえで重要であることが知られています。

 

何かいいことが起こるかもしれないと事前に予測できることで、脳の線条体と呼ばれるやる気を司る部分が活動するようになり、やる気もわいてきます。*2

 

なので、スムーズに仕事に取り掛かれるようにするためには、「できる」という感覚を持つことが大事です。ではこれから、どうすれば「できる」という感覚を持てるようになるのかをご紹介していきます。

 

分解してしまえば楽に処理できる

なかなか手を付けられない仕事と、どう向き合えばいいのか?その答えを与えてくれるのが、兵法書としても名高い『孫子』です。

 

自分よりも大きな敵をどうやって倒せばいいのかということに関して、次のような一節があります。

 

是れ十を以って其の一を攻むるなり

(こちらの十人で敵の一人を攻める)

「孫子」虚実編、岩波文庫より

 

どんなに大きな敵であっても、こちらが戦えるような規模にバラバラになってしまえば勝てるというわけです。仕事や資格の勉強などでも、同じことが言えます。

 

「さすがに多すぎて処理できない!」なんて感じるときでも、可能な限りバラバラにしてやれば、「これくらいなら、できそうだな」と思えるものです。

 

この手法の有用性を示す実例の一つが、『スーパー「速学術」』という本です。

 

著者の黒川康正氏は、弁護士、公認会計士、通訳の資格を持たれている方で、著書の中でも「とてもそのままでは達成できないような大目標を設定した場合は、それを自分のこなせる単位にまで分解して、一つひとつやりとげていくのがいちばんいい方法」と紹介されています。*3

 

うまく使いこなせば絶大な効果があるというのが、お分かりいただけるのではないでしょうか。

 

また細かく分けるというのは、モチベーションのアップにも有効です。いくつも細かいゴールを設定することで、何度も達成感を味わえるようになります。

 

さらに、できたという体験を何度も脳に刷り込むことによって、それが自信につながっていきます。そのような状態を実現できれば、仕事を処理するスピードもアップします。

 

仕事の目的やゴールを意識する

細かいところにばかり注意がいきやすい人や、段取りが悪い人というのは、まずゴールや目的を明確にする必要があります。小さなチャンクで物事をとらえていて目の前のものしか見えなという人は、まずこれをやる必要があるんです。

 

ゴールや目的が明確になることで、そこに至る最短ルートが分かり、無駄なことをしなくてすみます。ゴールや目的と今の自分を直線で結んだものが最短距離なわけですから、あとはいかにしてこの最短距離からはみ出さないように進むのかを考えればいいわけです。

 

また、全体像を把握するようにすることで、何をどのような順番で処理すれば効率よくなるのかも分かります。同時並行で処理した方が効率のいいものや、先に片付けないと次の仕事ができない場合というのもありますから、どういったプロセスで進めていくのかということを事前にイメージしておくことが大事になってきます。

 

仕事が速い人というのは、ゴールや目的が明確であり、全体像をしっかり把握しています。仕事が遅いという人は、ゴールや目的が明確になっているか、そして全体像を把握できているかをチェックしてみてください。

 

チャンクの使い方のバランスが取れるようになってくれば、仕事もスムーズに進むはずです。ぜひチャンクの使い方というのを意識してみてください。

 

参考文献

*1)知識ゼロからの行動経済学入門、P54~55

 

*2)篠原式 勉強脳の作り方 3大ドリル付き (TJMOOK)、P68~69

 

*3)スーパー「速学術」、黒川康正著、三笠書房、P30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*