HIP HOPの中でもラップに興味を持つと、必ず耳にするワードが「韻」です。
この記事を読んでいる方の中にも、ラップに興味を持ち始めた方も多いのではないでしょうか?
ラップの中で多く使われている韻ですが、「ラップなんてやらないよ!」という人にとっても、
韻を踏めるようになることでコミュニケーション力が劇的にアップします!
今回は、韻が持つパワーについて解説し、韻を踏めるようにするにはどうすればいいのかを紹介します。
【目次】
そもそも「韻を踏む」とは
韻を踏むとは、一定の規則にしたがって同じ音を繰り返すことで、リズムや強弱を生み出すことを言います。
まずは、具体例を見てみましょう。
語尾を同じ音で統一
目にすることが多くて一番わかりやすいのが、
語尾を同じ音でそろえるパターンです。
例1
ホップ
ステップ
ジャンプ
このように語尾を同じ音でそろえるというのは、
漢詩や英文詩の中でもよく見られます。
一方、次のようなパターンもあります。
第一音を同じ音で統一
韻は必ず語尾で踏むというものではなく、
次のように第一音で踏む場合もあります。
例2
センス
セオリー
セレンディピティ
このように、出だしの一音目をそろえることでも、リズム感を出すことができます。
これらのように、同じ位置を同じ音でそろえるというルールならわかりやすいのですが、
韻の踏み方には、他にもパターンがあります。
様々なパターンがあることで初心者は混乱してしまいやすく、
「韻を踏むって、どういうことなのかよくわからん!」
となってしまいがちです。
頭の中を整理しながら、
他のパターンも、一つひとつ丁寧に見ていきましょう。
似た響きを持つ言い回し
先ほどの例では、語尾もしくは出だしの一文字で韻を踏んでいましたが、
韻を踏む際には文字数に制限はありません。
例3
偽り (いつわり)
いつ終わり (いつおわり)
「い」「つ」「わ」「り」の4つの音が同じ順番で出てきており、
この4つの音で韻を踏んでいます。
このように、韻を踏む際には、一文字だけとは限らず、
何文字にもわたって踏むことがあります。
声に出して読めば、音の響きが似ているので韻を踏んでいると気づきやすいですが、
文章として書かれたものをパッと見ただけでは、韻の存在に気づきにくいです。
こうした、見た目だけでは分かりづらいという点も、
初心者が混乱しやすい原因の一つです。
同じ母音で統一
平仮名やカタカナをローマ字表記すればわかりますが、
50音のあ行と「ん」以外の文字は、子音に「a i u e o」の母音をつけることで表現されます。
この母音の部分をそろえるというのも、
よく使われる韻の踏み方です。
例4
夢(ゆめ yume)
胸(むね mune)
上(うえ ue)
この例では、「u」と「e」の母音が同じ順番で出てくるという規則性があります。
同じ子音で統一
母音で踏むというやり方以外にも、
子音の方をそろえるという韻の踏み方もあります。
例5
朽ちる(くちる kutiru)
来たれ(きたれ kitare)
語り (かたり katari)
これ例では、「k」と「t」と「r」の子音が同じ順番で出てくるという規則性があります。
アナグラム踏み
アナグラムとは、言葉の綴りの順番を入れ替えて別の言葉を作ることです。
例6
薬 (くすり)
リスク (りすく)
この例では、最初の「くすり」の文字の順番を入れ替えて「りすく」という別の単語を作り出しています。
同じ「く」「す」「り」の文字が使われていることから、
発音した際に響きが似たものどうしとして認識されやすくなります。
韻の踏み方のパターン
どういったものが韻に該当するのかを紹介してきましたが、
その韻をどこで踏むのかにもパターンがあります。
文末で韻を踏む
まず分かりやすいのが、文末で韻を踏むというやり方です。
例7
悪い奴らの秘密を暴露
助けも無く進む道は悪路
もう引き返せないからと決めた覚悟
この例では、「暴露」「悪路」「覚悟」の部分で韻を踏んでいます。
文末で韻を踏むことで、リズム感が出るだけでなく、
全体的に統一感も出てまとまりが良くなります。
頭の部分で韻を踏む
文末で踏むやり方に比べると、それほど見かける機会は多くはありませんが、
一文の頭、もしくは、
複数行にわたって書かれた文の各行の頭で韻を踏むというやり方もあります。
例8
おもしろい人は
思わず
応援したくなる
この例では、各行の第一音である「お」の音で韻を踏んでいます。
漢詩や英文詩を通して韻を踏むということを知った人の中には、
韻は文末で踏むものだと思い込んでいる人もいるかもしれませんが、
こういった最初の方で韻を踏むやり方もあります。
あまり耳にする機会がそれほど多くないのは、
日本語の標準語では、第二音以降にアクセントがあることが多いので、
第一音で韻を踏もうとすると、アクセントがない分強く発音しづらいという事情があるのかもしれません。
MCバトルやスピーチの中では使いづらい一面のある韻の踏み方かもしれませんが、
文章の中で使うと、その文書を読みやすくすることができます。
SNSへの投稿では、短い文章を例のように書き出しをそろえて韻を踏むことで、
読み手へのインパクトを高めて印象に残りやすくする効果が期待できます。
文のあちこちで韻を踏む
一つの文の中で韻を踏んだり、
複数の文にまたがって韻を踏むというパターンもあります。
例9
夢を胸に上を目指す
先ほど出てきた韻の例を一文にまとめてみました。
このように一つの文の中で韻を踏むというのもありです。
ラッパーの人が書いたリリックの中には、韻を乱れ撃ちするという感じで、
至るところで韻が踏まれているというものあります。
対比になるように韻を踏む
表現としてパンチがきいていてメディアなどで用いられることが多いのが、
対比の形になっている韻です。
例10
AIか、エアコンか
この例は、今年(2024年)に、どこかのメディアの見出しで私がチラッと見かけたものです。
猛暑どころか酷暑で電力の需給もひっ迫する中、
大量に電力を消費するAIにも電力を回すべきかを問うものでした。
AI(エーアイ)とエアコンの「エ」の部分で韻が踏まれています。
単純に二つ並べて「Aか、Bか」みたいな形にするよりも、
韻も踏むようにすることで、受け手の印象に残りやすくなります。
この例のように、さまざまなメディアにおいて、さりげなく読み手に
インパクトを与えて印象に残るようにするために韻が踏まれることがあります。
韻を踏むことのメリット
韻はMCバトルだけでなく、文学や広告宣伝でもよく使われています。
韻を踏むことでどんなメリットがあるのかを知っておきましょう。
リズム感が出る
韻を踏むと、一定の間隔で同じ音が繰り返されることになります。
それによって、言葉にリズム感が生まれます。
MCバトルでは、ビートに言葉を乗せやすくなるというメリットがあります。
また、詩のジャンルにおいても、文末で韻を踏むことで、リズム感を出すことができ、読み手にとって読みやすいものになります。
その他にも、韻を踏むことで全体的にまとまった感じを出すことができます。
頭にスッと入る
言葉にリズム感や一定の規則があることで、記憶に残りやすくなります。
この「記憶に残りやすくなる」というのは大きなメリットであり、新聞広告やテレビCMの中でも、さりげなく韻が踏まれることがある理由です。
限られた時間や予算の中で、効率よく消費者に商品やサービスのことを覚えてもらうためにも、韻を踏むのは有効なテクニックなのです。
たとえば、お笑いタレントでは、狩野英孝さんの「ラーメン、つけ麺、僕イケメン」のフレーズは有名です。
言葉を3つ並べるだけでもリズム感は出ますが、そこに韻が入ることでさらにリズム感が出て覚えやすくなります。
人気商売のお笑いの世界では、お客さんに覚えてもらってナンボなところがありますから、上手い工夫と言えます。
このように、なんとしてでも相手に覚えてもらいたいという時には、韻を活用するというのは有効な手段となります。
快感が得られる
韻の持つ大きな特徴が、快感が得られることです。
一定のリズムで同じ音が繰り返されることで、深く考えなくても内容がスッと頭の中に入ってくることで、聴いていて気持ちよくなります。
聴く側だけでなく、韻を踏む側も快感が得られます。
韻を踏む際には、同じような口の動きを繰り返すことになります。
そうなると体への負担も減って楽だと感じるようになり、これが気持ちよさにつながります。
なぜ韻を踏むことにこれだけの効果があるのか
韻を踏むことの効果を科学的な観点から理解できれば、
単なる言葉遊びというレベルのものではないということがわかります。
ここでは、韻の効果がどのようにして生まれてくるものなのかを解説していきます。
脳への負担がグッと減る
韻を踏むと、相手の頭の中にスッと入る理由、
それは、脳への負担がグッと減るからです。
韻には一定の規則性があるため、
脳の情報処理の負担が少なくなります。
たとえば、
28597
というランダムな数字の列を覚えるよりも、
13579
という数字の列の方が覚えやすいはずです。
奇数が1から順番に並んでいるという
規則性があることに
気づけば
スッと頭に入ります。
脳にとっては内容を理解するために余計な情報処理をしなくて済むので、
それだけエネルギーの消費もおさえられ、脳が疲れにくくなります。
韻だけでなく「対比」とセットで使うことで、
効果はさらに高まります。
対比の関係にあるものもは、片方さえ理解できれば、
もう片方はそれを裏返すことで簡単に理解できます。
対比関係にないものに比べると、
覚える手間は半分で済むというのがメリットです。
こうした「わかりやすさ」というのは、
専門的には「認知容易性」と呼ばれています。
韻は認知容易性を高めてくれる素晴らしいツールでもあるのです。
ドーパミンが出て気持ちよくなる
生存にプラスに働くような出来事があった際には、
脳からドーパミンが分泌されて気持ちよくなります。
たとえば、おいしい物を食べた時や、
日常生活に役立つ雑学を知って「へぇ~」となった時です。
韻を踏んだ時にも、情報の受け手である相手の脳では、
脳のエネルギー消費が少なくて済みます。
無駄なエネルギーを消費しないというのは生存にプラスであるため、
ドーパミンが出て気持ちよくなると考えられます。
ちなみにですが、カナダのマギル大学の神経科学チームの研究によると、
音楽の快感は「アルコールと同じ脳領域」で発生しているそうです。
韻は同じ音をリズミカルに繰り返すという音楽的な要素があります。
韻の気持ち良さというのも、同じ脳領域で発生している可能性は高いでしょう。
韻を踏めるようになるには
ここまで記事を読んでこられた読者の中には、
「韻を踏んでみたい!」と感じた方も多いのではないでしょうか?
韻を踏むためには、特別な訓練というものは必要なく、
少し練習するだけで誰でも踏めるようになります。
ただ、韻のバリエーションを増やすためには、
普段から韻に意識を向けておくというのが大事です。
そうすれば、日常にあふれる言葉の中にある韻に気づけるようになったり、
ふとした瞬間に韻のアイデアが浮かんでくるようになります。
考える時間さえ確保できれば韻はいくらでも思いつきますが、
MCバトルのように即興で韻を踏まないといけないという場合ともなると、
やはり日頃からの積み重ねが重要になってきます。
MCバトルにおいて、日本で初めてアンサーで韻を踏んだのはICE BAHNのForkさんだそうですが、
そのForkさんのバースをYouTubeの動画で見ていると、
「膨大な韻で超えるボーダーライン」
と韻を踏んでいるのを見たことがあります。
これを見ると、即興で踏めるレベルになるためには、
かなりの量の韻のストックが必要になることがわかるのではないでしょうか。
それに加え、頭の中に蓄えた韻を状況に応じて瞬間的に引き出せるようになるには、
韻を普段から踏みまくるという不断の努力も必要です。
息をするかの如く韻を踏める域に達するには、
隙あらば踏みにいくくらいの気持ちを持っておくことが大事になってきます。
(と言いつつ、私も今韻踏んでます)
韻を踏めるようになると、表現力がアップするだけではありません。
お酒に酔ったような快感が得られるといのも、韻の魅力です。
踏んでいて楽しいので、ぜひ皆さんもチャレンジしてみてください!