「”論理的に”わかりやすく説明して!」
そう言われても、具体的にどうすればいいのかよくわからない人も多いのではないでしょうか。
「論理的な人の話はわかりやすい」とよく言われます。ビジネスの世界でも、論理的に物事を考える「ロジカルシンキング」は重要なスキルの一つです。
一方で、論理的に考えることができずに、自分の感覚やその場の雰囲気で判断してしまいがちな人もいます。判断ミスや人間関係のトラブルを防ぐためにも、論理的に考えるというのは重要になってきます。
また、最近の高校の国語は、選択科目として論理国語、文学国語、国語表現、古典探求の4つがあり、何を選ぶかは迷うところです。論理的と感情的の違いをよく理解しておかないと、選びづらいということもあるでしょう。
今回は、論理的とはどういうことなのかを認知科学的な視点も交えながら深掘りし、メリットやデメリット、直感的や感情的との違いについて解説していきます。
論理的とは
「論理的に」とは言っても、なんとなくわかった気はするものの、具体的にどういう状態なのかよくわからないという人も多いでしょう。
ここではまず、言葉の意味やよく似ている「理論的」との違い、さらに反対の意味で使われることのある「直感的」や「感情的」との関係について解説します。
論理的とは
論理的とは、ちゃんと筋道立てて理屈に反しないように順番通りに考えていく様子をいう言葉です。
「論理的に」を英語で言うと、「ロジカル(logical)」です。ビジネスの現場では「論理的に」という言い回しよりも「ロジカルに」という言い回しの方を耳にする機会が多い印象があります。
論理的な人の話はわかりやすいと言われるのは、ちゃんと筋道が立っているので全体像がわかりやすいのと、一定の順序に従って話すので聞き手が話の内容を頭の中で整理しやすいからです。
例えば、ビジネスにおいて代表的な話し方として「PREP法」というのが知られています。
PREP法では、①Point(要点)⇒②Reason(理由)⇒③Example(具体例)⇒④Point(要点)という順序で話を進めていきます。
このように一定の順序に従って理屈と矛盾しないかどうかを検証しながら進めていくやり方が論理的なものです。
理論的との違い
「論理的」と「理論的」は、表現する上でどちらを使えばいいのか迷ってしまう時があります。
結論から言うと、この二つは筋が通っていることという共通の意味があるため、ほぼ同一に用いることができます。
ただ、「論理」という場合には、思考などを進めていく道筋そのものを指しているのに対して、「理論」というと、ある物事に対して原理や法則をもとにして筋道を立てて考えた認識の体系を指すとされています。
これを踏まえると、「理論」は「論理」の一要素であると言えます。
直感的、感情的との関係
「論理的」という言葉と対比されやすいのが、「直感的」と「感情的」です。
直感的とは、判断や推理によらずに物事の本質を直接的にとらえることです。論理的な思考では、筋道を立てて一つ一つ正しいかどうかを検証しながら進めていくのに対し、直感的な思考では、そいうったプロセスを全てとばして一気に本質をつかみにいきます。
ただ、直感は単なる当てずっぽうとは異なり、ベースにその人が過去に積み重ねた膨大な経験があります。いわゆる「職人の勘」のようなものというと、わかりやすいかもしれません。長年の経験を積み重ねていくと、言葉や理屈では上手く説明できないけど、なんとなくこうすると上手くいくというのが分かるというものです。
また、感情的とは、理性によらずに個人的な好き嫌いで判断をしたり、感情に流されて自分で自分をコントロールできなくなる様子をいいます。論理的な思考では、個人的な好き嫌いは横に置いておいて客観的な立場で考えることや、感情にながされることなく自分をコントロールするという点で真逆であると言えます。
論理的に考えることと直感的、感情的に考えることの違い
論理的な思考と、直感的、感情的な思考の関係については、なんとなく真逆のものだと理解している人も多いのではないでしょうか。
それぞれの思考において、脳の中でどのような情報処理が行われているのかを知れば、違いをより深く理解できるようになります。
人間に備わった二つの思考システム
人間の意思決定には、二つの思考システムが関わっているとされています。そのことについて詳しく解説されているのが、認知科学者であるダニエル・カーネマン教授によって書かれた『ファスト&スロー』です。カーネマン教授は、経済活動における人間の不合理な意思決定について研究した行動経済学の研究により、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。
この二つの思考システムは、いわゆる意識と無意識と呼ばれるものです。無意識の側は「システム1」、意識の側は「システム2」と呼ばれます。
人類の進化の歴史の中ではシステム1が先に存在し、厳しい自然界の中で生き残っていく上で重要な役割を果たしました。システム1は、人間にとって欲望の絡む動物的な部分です。
一方、システム2の方は、人間にとって理性をつかさどる部分であり、進化の歴史の中ではシステム1の次に形成されたものです。
二つのシステムは同じ割合で働いているというわけではなく、思考のおよそ9割はシステム1が占めています。
この二つのシステムが、論理的な思考と直感的、感情的な思考の違いを理解するのに重要になります。
それぞれの思考システムの特徴
それでは、二つの思考システムの違いについて見ていきましょう。
それぞれの特徴を比較してまとめると、以下の表のようになります。
これを見ると分かるように、システム1は、スピード重視の省エネな思考システムです。
厳しい自然界の中で生き残っていくためには、わずかな判断の遅れが命取りになります。また、食料を確保できる保証もないため、少しでもエネルギーを節約できるようにするということが生き延びる上では有利になります。
一方のシステム2は、正確な判断を重視した思考システムです。判断速度も遅く思考によって多くのエネルギーを消費するため、脳への負担も大きくなります。自然界で生き延びていく上では、あきらかに不利な思考システムです。
しかしながら、システム2では、途中経過を飛ばしていきなり結論を出すのではなく、論理的に積み重ねて結論を出すことで正確な判断をくだせるようになります。人間社会においては、目先のことだけ考えて判断するよりも、長期的な視点に立って合理的な判断を下すというのが重要になってきます。そのため、システム2は、人間社会の中で生きていくためには、非常に重要な思考システムと言えます。
二つの思考システムの使い分け
論理的な思考と直感的、感情的な思考は真逆のものであり、対立する関係にあると思っている人も多いかもしれません。実際には、互いに反発するものというよりも、お互いに補い合うものという関係にあります。
私たちの普段の生活の中でも、システム1の方がメインに働いており、システム1で対応できないような状況になった時にシステム2が働くようになっています。
例えば、スーパーでの買い物客の購買行動を分析した研究では、多くの消費者は商品のパッケージのような視覚情報だけを見て直感的、感情的に買うかどうかを判断するとされています。パッケージの裏側に印刷されている成分表示やどこで作られたものなのかといった情報まで毎回チェックしていると、多くの時間と労力がかかってしまいます。いちいち考えるのが面倒だというものについては、たいていシステム1で処理されるのです。
一方、判断を間違うわけにはいかないような大きな金額が絡むものや人生を左右するようなものについては、システム2で判断を下すことになります。ローンを組んで家を買うような場合や、就職先や転職先を決めるような場合です。こうした判断は、スピードよりも正確さの方が重視されます。
論理の飛躍が起こる理由
小論文を書く時や何かを議論する時に、たまに論理の飛躍が出てしまうケースというのがあります。
例えば、「昨夜の大雪の影響で、交通事故が発生した」という一文を見てみましょう。大半の人はこのような一文でも、なんとなく状況をイメージできます。しかしながら、何かを議論するような場合には、大事な部分が抜け落ちてしまっています。
大雪というのは、交通事故の直接的な要因でありません。事故が起こった直接的な要因としては、路面凍結によるスリップや降り積もった雪による視界不良、あるいは雪で身動きが取れなくなっている車に後続車が追突したということも考えられます。こういった直接的な要因を把握できていないと、どうやって事故を防げばいいのかを正しく議論するのが難しくなってしまいます。
こうした途中の経過を飛ばして結論を出そうとしてしまうのは、システム1が働いてしまうためです。先ほども触れたように、論理的な思考を行うシステム2を動かすのは、手間と時間がかかります。「考えるのが面倒くさい」や「早く結論を出したい」と感じてしまうと、無意識的に楽をしようとしてシステム1が働き、途中の経過を省いてしまいます。システム1は無意識下で働くため、本人も大事な部分を飛ばしてしまったということには気づきにくいものです。
また、自分にとって得意分野のことを何も知らない他の人に説明するような時にも、自分にとって当たり前だと感じることは省いてしまいがちになります。もちろん自分にとっては当たり前であっても、他の人にとっては当たり前であるとは限りません。一番大事な基本的な部分がちゃんと伝わっていないと、トラブルの原因にもなりかねません。
こうしたトラブルを防ぐためにも、相手の立場になって考えるスキルを磨くということも大事になってきます。
論理的な思考のメリット
論理的な思考というと科学の分野を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、ビジネスの世界においても論理的な思考が求められます。
その理由としては、論理的な思考には以下のようなメリットがあるからです。
正確な判断が下せる
論理的な思考の一番の強みは、正確な判断が下せることです。
人は普段、簡便な方法で判断を下すシステム1の方を使っていますが、重大な決断をしなければならず判断を間違うわけにはいかないという時には、論理的な思考を行うシステム2が働くようになります。
スーパーでの買い物程度なら、判断を間違っても「ちょっと損したな」程度で済みます。しかし、大きな金額が動くような判断ともなると、ちょっとどころの損失程度では済まないことが多くなります。
ビジネスの世界ともなると、大きな金額のお金が動きます。そんな状況で判断ミスを繰り返してしまえば、取引先にも迷惑がかかってしまい、信頼関係に傷がついてしまうということになりかねません。
判断の正確さを確保するためにも、論理的な思考をすることが求められるようになります。
結論に至ったプロセスが明確
論理的な思考では、意識的に一つ一つ丁寧に考えながら積み重ねていくことで結論を導き出します。そのため、どういったプロセスを経て結論にたどりついているのかというのが明確です。
直感的、感情的に考えてしまうと、何をどう考えてそのような結論に至ったのかということが本人にすらもわからず、「どうしてそう思ったの?」と聞かれても「なんとなく」や「そう感じたから」程度の答えしか返せません。
論理的な思考では、結論に至るまで何をどう考えたのかがわかるため、他者に対して思考の流れを説明することができ、説得力を持たせることができます。
さらに、思考の途中経過がはっきりと把握できているため、万が一、思った通りにいかなかった時に、どこにどんな問題があったのかを検証することができます。こうした振り返りをすることで、次回以降の判断の精度を高めていくことができます。
未知のものに対しても仮説を立てて対応していくということもでき、予測した結果と実際の結果にずれが生じた時には、思考のプロセスを検証することで予測の精度を上げていくことができます。
再現性が高く、見通しを立てやすい
直感的、感情的な思考は、個人的な知識や経験、主観に基づいたものであるため、人によって判断がばらついてしまいます。一方で、論理的な思考では、客観的に考えます。そのため、判断のばらつきは少なくて済みます。
結論がばらつかないで済むということは、組織内では意思統一を図りやすいというメリットもあります。多様な価値観や考え方を持った人が集まる大きな組織をまとめようとすると、方向性をうまくそろえるというのが必要になってきます。
また、思考のプロセスが明確であるため、誤解のリスクも少なくなります。誤解によるすれ違いが無くなれば組織内のコミュニケーションも円滑になり、成果を生み出しやすくなるというメリットもあります。
さらに、論理的に考えて予測されたこと、特に理論に基づいたものは、予測した通りの結果になりやすいものです。企業としても事業計画を立てやすいというメリットがあることから、目標や計画を立てる際には論理的な思考が求められます。
以上のようなメリットがあるため、論理的な思考はビジネスの世界において重要視されることが多いものです。
論理的な思考のデメリット
論理的な思考は、一見すると誰でも簡単にできそうに感じます。ところが実際には、うまくできないという人も大勢います。
その理由としては、論理的な思考には以下のようなデメリットもあるためです。
結論が出るまで時間がかかりやすい
論理的な思考では、一つ一つ思考を丁寧に積み重ねていって結論を導き出します。複雑な問題を考えないといけないような場合には、一人になってじっくり問題と向き合う必要も出てきます。
結論が出るまでには、どうしても時間がかかるというのが難点です。正確さはある一方で、素早い判断には向きません。
中には、結論にたどり着くまでどうしても待てないという人も一定数います。そのようなタイプの人は、時間がかかってしまう論理的な思考を避けて、より素早い判断が下せる直感的な思考や感情的な思考に流されていきやすくなります。
脳への負担が大きい
直感的な思考や感情的な思考は、自分で意識的にやろうとせずとも無意識的に行われることが多くあります。いわば「脳の自動運転モード」です。
これに対して論理的な思考は、意識的にやらないといけません。こちらは「脳の手動運転モード」と言えます。いつもは省いて考えているようなところまで意識的に考えるようにします。そのため、時間だけでなくエネルギーも多く消費するようになり、脳への負担も大きくなります。
脳への負担が大きくなって不快感が出てくると、考えることを面倒くさがるという人も出てくるようになります。そうなってくると、より楽に判断を下せるように、その場の雰囲気や自分の好き嫌いで判断するという方向に流されやすくなります。
細かい部分にまでとらわれてしまいやすい
正確な判断を下そうとなると、おおまかな判断を下す時には無視していた細かい要素についてもちゃんと見る必要が出てきます。裏を返せば、正確な判断にこだわり過ぎてしまうと、細かい部分にとらわれてしまうということが起こりやすくなります。
考慮しないといけない要素の数が多くなってくると、それだけ思考も複雑化していってしまいます。そうなると、結論を出すまでに余計に時間や労力がかかります。重大な決断を下すために最初は論理的に考えていたとしても、途中であまりの複雑さに耐えられなくなってしまい、「もう面倒くさい」と最後は直感的に判断してしまうということも起こります。
また、誰が考えても同じ結論にたどりつけるという再現性があるということは、一方では文学作品を鑑賞した時のような「感じ方は人それぞれ」というような解釈の自由度は低いということでもあります。こういったことから、論理的な思考に対して冷たさを感じてしまうという人も出てきます。
論理的になるためには
直感的、感情的な思考は意識などしなくてもできるものですが、論理的な思考ともなると、意識しないとできないものです。使いこなすためには、トレーニングも必要になってきます。
具体的に、どのような点に気をつけてトレーニングしていけばいいのかについて解説します。
「考える」ということを意識する
人は油断すると、どうしても楽な方に流されがちになります。直感的、感情的な思考は、脳への負担が少ないため、どうしても考えるのを面倒くさがってそちらに流れていきやすくなります。
判断のミスを減らせるようにするには、普段から「考える」ということを意識することが大事です。
とは言っても、論理的な思考は脳への負担も大きいため、いきなりゼロから考えるというのも難しいものです。論理的な思考が十分身についていない人がいきなりやろうとすると、思考が筋道から外れていろんな方向に行ってしまい、考えがまとまらずにグチャクチャになるということも起こりやすくなります。
そこでお勧めなのが、先ほども少し触れたPREP法のような思考の「型」を活用することです。型を使って考えることで、筋道を立てて考えるのが楽になり、抜けや漏れが生じてしまうのを防ぐことができます。
ビジネスの世界においても、課題分析や目標設定のためのフレームワークと呼ばれる型が多くあり、それらを活用することで他のメンバーと考えた内容を共有しやすくなり、コミュニケーションが円滑になります。
客観的な根拠があるか確認する
直感的、感情的な思考を行うシステム1と論理的な思考を行うシステム2とでは、システム1の方が先に動きます。そのため、その場の雰囲気や感情に流されやすくなり、判断が主観的な方向へ流されやすくなります。
そうなってくると、事実と意見を混同してしまうということも起こりやすくなります。ビジネスにおいては事実と意見を分けて考えるということは重要なことであり、個人的な意見をあたかも事実のように話してしまうと判断を誤ってしまい、トラブルのもとになりかねません。
その他にも、相手の対応が良くなかったというだけで「きっと嫌われているにちがいない」と考えてしまう感情による決めつけもよく起こることであり、心理カウンセリングにおいてもよく知られている認知の歪みの一つです。もしかしたら、ちゃんと対応できなかった事情があったのかもしれません。そうした事情を考慮せずに決めつけてしまうと、人間関係のトラブルを招いてしまうということになりかねません。
トラブル防止のためにも結論を急ぎ過ぎず、客観的に見て正しいと言える根拠があるかどうかを確認してみるということも、論理的な思考を身につけるためには重要になります。
継続することも大事
論理的な思考は、いわば脳の筋トレのようなものです。正しいやり方で継続してトレーニングしていけば、誰でも身につけることができます。
筋トレと同じように、継続して適度な負荷をかけ続けるというのがポイントです。あまりにも難しい課題に取り組むと、脳に負担がかかり過ぎて嫌になってしまいます。逆に、簡単すぎる課題ばかりだと、いつまで経っても思考力は伸びません。
論理的な思考力は、鍛え上げるにのには手間のかかるものです。それを乗り越えて身につけることができれば、仕事で成果を出したり、日常のトラブルを回避したりするのに役立ちます。IT系の仕事では、とりわけ論理的な思考が求められます。
論理的な思考とはどういうものなのか、ご理解いただけたでしょうか。
身につけるのは確かに大変ですが、変な思い込みに振り回されることが少なくなり、的確な判断で成果を得られるようになるのは、論理的な思考の大きな魅力です。