省略法とは、文章の一部を意図的に省略する表現技法です。日常会話から文学まで幅広い分野で使われており、新聞やネットニュースの見出しで必ずといって良いほど目にします。
「省略するだけなのに、何がそんなにすごいのか?」と疑問に思う人も多いかもしれません。
じつは省略法の効果は、文字数を減らせるだけではありません。直接的な表現を避けることで、会話において角が立たないようにすることができます。使いようによっては、暗示による誘導にも使えてしまうこともあります。(もちろん悪用厳禁ですよ。)
今回は、そんな省略法について詳しく解説していきます。
【目次】
省略法とは
省略法とは、文の中の一部の要素を意図的に省略することで、余韻やリズム感を生み出す表現技法です。他の表現技法と同じように小中学校の国語の授業(特に詩について習う時)に学習することが多いようです。詩や文学に限らず、日常生活の幅広い分野で使われており、目にする機会も多いです。
文の中の一部の要素を省略するだけという簡単な方法ですが、使い方によってはコミュニケーションを円滑にするのに役立ちます。難しい表現方法ではなく、個人的には、同じ言葉を繰り返す「反復法」と同じくらいか、その次くらいに簡単な表現技法だと思っています。
具体的にどの部分をどう省略するのかについては、後の例文紹介のところで見ていきます。
省略法の効果
省略法の内容がわかったところで、どんな効果があるのかを見てみましょう。
文字数を減らせる
省略法を使う一番の目的というと、なんと言っても文字数を少しでも減らすことです。
限られた文字数で伝えないといけない場合や文字数に制限がある場合などには、省略法を使うことで少しでも多く情報を詰め込めるようにできます。
日常生活において、最も省略法を見かけるケースが多いのが新聞の見出しです。見出しでは少ない文字数で読者に記事の概要を伝えないといけないため、省略法が多用されます。
文字数が減ると、受け手への負担が軽減することにもつながります。
とりわけ文字数制限がある場合などは、省略法は役に立ちます。X(旧Twitter)なんかが、そうですね。
課金していない場合には、140文字の上限があります。限られた文字数を有効利用するにも、省略法は使える表現テクニックです。
リズム感や余韻を持たせる
長い文章を書いていると、どうしても文末が「~でした」や「~ます」が連続して単調になりやすくなることがあります。そうなってくると、読み手も退屈しやすくなり、途中で読むのをやめて離れて行ってしまいかねません。
また、1から10まで全てを丁寧に説明するような文章では、正確に伝わる反面、読者が自由に想像を膨らませる「余白」がなくなります。省略法では、あえて一部を省略することで、受け手がイメージを膨らませる余白を作り出すことができます。
適度に省略法を使うようにすれば、文章にリズム感が生まれ、余韻を持たせることができるようになります。
暗示する
省略法の効果の中でも、とりわけ重要になってくるのが、省略することにより生まれる暗示の効果です。直接表現しないことで、情報の受け手は頭の中でいろいろと想像を巡らせることになります。どんなものを想像するのかは、受け手次第です。
物語のような、先が見えてしまうと興味が薄れてしまうようなものでは、暗示の効果が活躍します。重要な部分をあえて隠すことによって、受け手の興味を持続させることができます。
その他にも、暗示の効果によって、相手をさりげなく誘導したり、圧をかけたりするのにも使えます。
省略法を使った表現例
それでは、省略法を使った表現例を見ていきます。
例1 大阪と言えば、たこ焼き!
一見すると何の変哲もない一文でが、ちょっとした仕掛けが隠されています。
もしこれが、「大阪と言えば、たこ焼きですよね!」となったらどうでしょうか。受け手に対して共感や判断を求めるような文になります。
世の中には、何をきかれても反対の意見を返してくるという人も一定数いるものです。相手次第では「いや、他にもあるんじゃないですか?」みたいな反応がきてしまう可能性もあります。
では、「大阪と言えば、たこ焼きだと思います!」ではどうでしょうか。こうなると、個人の感想です。突っ込まれる可能性は低いかもしれません。
でもこれだと、なんだか自信が無さそうな感じで、弱々しい気がしてしまいます。
例文のように省略法を使って語尾を省けば、押しつけ感が出てしまうこともなく、なおかつ自信の無さを出してしまうこともなく表現できます。
例2 それって、まさか・・・
これは見たことがある人も多いフレーズではないでしょうか。これも一見すると何の変哲もない一文に見えますが、「まさか」の部分で止めているという点が重要です。
もし「それって、まさか〇〇では?」と言ってしまうと、地雷を踏む可能性があります。〇〇が当たっていれば、問題ありません。でも、万が一違っていて、「いえ、違います。××です」のように返されてしまうと、ちょっと気まずくなります。そうしたことになるのを回避するために、「まさか」の後ろの部分を省略するわけです。
このように表現を曖昧にするというやり方は、占いでよく使われる「コールド・リーディング」という手法に通じるものがあります。コールド・リーディングでは、事前に何の準備も無いまま、あたかもすでに自分にはわかっているかのように相手に思い込ませるというテクニックです。
「まさか」の部分で止めておいて、答えを相手の口から言わせるようにすれば、「いえ、違います」という地雷をうまく回避できるというわけなんですね。
こうした使い方ができるのも、省略法ならではです。
例3 砂浜で二人きりで・・・。
読んだだけで、「一体何をしたんだろうか?」と頭の中で妄想が膨らんでくる一文ではないでしょうか。恋愛をテーマにした文章だったら、よくこういった感じの表現が出てきます。
いろいろと頭の中で想像を膨らませるというのは、読者にとっては一つの楽しみでもあります。情景描写を細かくするという表現方法もありますが、あまり具体的に書き過ぎてしまうと説明的になってしまいます。そうなると、読む楽しみが減ってしまうということなりかねません。
省略法によって読み手が想像を膨らませる部分を作れば、興味を引き付けることもできるようになります。
例4 これからも、みなさまと共に
これは、広告でよく見かける表現ですね。大事な部分が省略されているため、具体的にどうしていくのかということは直接的には分からない状態になっています。
省略されている部分には、一言では言い尽くせないようないろんな意味があるのでしょう。
もしこれを「これからも、みなさまと共に歩んでまいります」とすると、意味が一つに限定されることになります。そうなると「いや、もっと伝えたい想いがたくさんあるんだ!」という時には言葉足らずになってしまいます。かと言って、全部を言葉にして伝えると長くなってしまいます。受け手にしてみれば、長々と説明されるのは、あまりうれしいものではありません。
思い切って大事な部分を省略し、どんな言葉が省略されているのかを受け手に想像させることで、手間も省きながら受け手が都合よく解釈してくれるのを狙うわけです。
例5 高機能。それでいてコンパクト。
これも、商品の宣伝広告でよく見かける表現です。文字数を可能な限り削り、さらにリズム感も出しています。
広告ともなると、競合がたくさんいる中で、いかにして消費者の注意を引き付けられるようにするのがか重要になってきます。忙しく、しかも飽きやすい消費者は、長い文章など読みたがりません。そのため、いかに読むことや記憶することの負担を減らせるかがポイントになります。
省略法を使えば文字数を減らすことができ、少ない時間と労力で読めるようにできます。消費者にアプローチする上で、効果的な表現となるわけです。
例6 やめておきますか?それとも・・・
一見すると、やめておくことの意思確認のような一文です。でも実際はこれ、さりげなく「やる」という方向に誘導しようとしています。たいていこのセリフが使われている場面を思い起こすと、言われた側の答えは、「やります!」となることが多いですね。
では、なぜそうなってしまうのか?
このセリフを言われる側は、どうしようか迷っているという状態です。さらに「それとも・・・」の「・・・」に省略されているのは「やりますか」です。後でも詳しく説明しますが、人間の脳には欠けている情報を自動的に補うという機能があります。その機能が働くと、無意識的に頭の中に「やりますか」という文が浮かんでくるのです。
「う~ん、どうしようかなぁ」と迷っている時に、自分の頭の中から「やる」という言葉が浮かんできます。すると、悩んでいる時に自分の中から出てきたその言葉を、無意識的に自分の意思だと思い込んでしまいます。それに飛びついてしまうことで、「やります」と答えてしまうわけです。
例7 それをこっちに渡してもらおうか。さもないと・・・
こうしたセリフも、映画やドラマ、アニメなどで見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。よくある脅しのパターンです。
どうするのかをハッキリと言わないことで、不気味さや恐怖感が際立ってきます。それこそが省略法を使う狙いであり、こうした場面で使われる理由でもあります。恐怖感が倍増することで、相手が脅しに応じやすくなるというわけなんですね。
ここまで省略法の表現例を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。こうしてまとめてみると、単純に見えて奥が深い表現技法だということがおわかりいただけたかと思います。
省略することで効果が出てくる理由
文の一部を省略するだけでどうして効果が出てくるのか、気になるところです。
ここでは文の一部を省略することで何か起こるのかも交え、解説していきます。
解釈の自由度が増す
文の一部を省略するということは、その省略された部分については受け手側が自由に解釈することができます。
感情をかき立てることが重要となるエンターテインメント性のあるものでは、先が読め過ぎてしまうと受け手はすぐ飽きてしまうということになりかねません。どうなるのか分からないワクワク感やドキドキ感、そうしたものを演出するには、大事な部分は最後まで隠しておく必要があります。隠された部分は受け手が想像を膨らませる余白になるので、それだけ楽しみが増えます。
また、解釈の自由度が増えるというのは、情報の発信者側にも都合が良い面があります。
例えば、「未来に向けて前進!」という一文があったとしましょう。
これだけを見ても、「前進した」のか、「前進する」のか、あるいは「前進したい」のか、よくわからないですよね。どれになるのかは、文脈やその時の雰囲気や気分などから、受け手が適当に選んでくれます。実際には発信者が「前進したい」くらいの気持ちで言ったとしても、受け手側がポジティブに解釈してくれれば、「前進した」や「前進する」くらいのイメージで解釈されることになります。
このように、受け手にとって省略された部分の解釈の自由度があるために、暗示の効果によって実際よりも歪められてしまうということが起こります。
脳のオートフィル機能が働く
人間の脳には、欠けている情報を無意識的に補ってくれるオートフィルの機能が備わっています。
例えば、「12 4567」と数字が並んでいれば、多くの人は「あれ?3が抜けてるな」と気づきますよね。
この例では数字の並びですので規則性があり、誰もが3が省略されていると気づくはずです。ところが、省略されているのが言葉だというケースとなると、省略された部分に何を当てはめるのかは、相手の過去の知識や経験、その時の状況などによって左右されます。
言葉を省略すれば、相手の脳ではオートフィル機能が働いて無意識的に欠けている部分を推測して補ってくれます。この仕組みがあるからこそ、省略法は効果を発揮できます。
逆に、このオートフィル機能が十分働かないというタイプの人だと、省略されている部分を想像することができずに、「で、何が言いたいの?」という感じになりやすくなります。
不完全なものに対しては注意が持続する
ドラマやバラエティー番組なんかで、盛り上がる直前に次回予告やCMに入ってしまうことって、よくありますよね。あれは、人間は完成していないものに対して注意力が持続するという心理を利用したものです。そのような中途半端なものに対して気になって忘れられなくなることは、「ツァイガルニク効果」と呼ばれています。
物語の中で使われる省略法も、まさにこうした心理を活用したものです。「扉を開けてみると、その先には・・・」と表現されたら、何があるのか気になりますよね。
省略してあえて不完全な形にすることで、このツァイガルニク効果が生じるようになっています。
省略法の活用方法
省略法は、他の表現技法に比べると一番目にする機会が多いものです。新聞や雑誌、ネットニュースでは必ずと言っていいほど使われています。その他にも、例文で触れたようにコピーライティングでもよく使われます。
そうは言っても、メディア向けに記事を書くこともないし、SNSでもあまり自分から発信しないという読者の方も多いでしょう。
省略法は、日常生活においても使われることがあります。とりわけ、言いづらいことがあるような場面です。
予定を聞かれて、「悪いですが、その日はちょっと・・・」と言うようなケースですね。はっきりとダメですと言ってしまうと、角が立ってしまいます。はっきりした物言いで人間関係を悪くしたくない。そんな時に、省略法は使えます。
省略法を使う時の注意点
それでは最後に、省略法を使う時の注意点を見ていきましょう。
優柔不断、または、ぶっきらぼうな印象を与えやすい
省略法は、使う状況によっては優柔不断な印象を相手に与えてしまうことがあります。とりわけ、ハキハキと元気よく話すことが求められるような場面です。「・・・」で終わるような語尾がはっきりしていないものだと、弱々しく見られてしまうことがあります。
一方で、丁寧に話した方が良い場面では、体言止めで終わるような形のものでは、逆にぶっきらぼうな印象を与えてしまうことがあります。
例えば、飲食店で
「ご注文はお決まりですか?」
「コーヒー一杯」
というやりとりです。
もちろんこれでも通じますが、できることなら「コーヒー一杯、お願いします」と言った方が丁寧です。
他にも、授業中にトイレに行きたくなった児童が
「先生、トイレ!」
と言うと、
「おいおい、先生はトイレじゃないぞ!」
となってしまうようなケースもありますね。この場合に適切な表現例としては
「先生、トイレに行きたいんですが・・・」
とするのが適切でしょう。
状況に応じた使い分けが必要であるという点には、注意しましょう。
相手によっては伝わりにくい
省略法は、使い方によっては回りくどい表現になってしまいます。
人によっては「はっきり言ってもらえた方がわかりやすい」というタイプの人だっているでしょう。先ほども少し触れた「脳のオートフィル機能が十分働かないような人」です。
また、省略法を使ってやり取りするのであれば、お互いに信頼関係が出来上がっているという点も重要になります。同じ職場の人に書類を取って欲しいという時に、「書類!」と言うと仲の良い相手なら取ってくれるでしょうが、それほど親しくない人なら上から目線のように思われてしまいます。
そうしたことから、状況であったり伝えたい相手のタイプを見極めて使うという点も大事です。
形式ばったものには不向き
これは他の表現技法にも共通して言えることですが、形式ばった文章には省略法は使わないのが普通です。こうした文章では表現することなんて求められていませんから、当然と言えば当然でしょう。
新聞ではよく使われますが、あれは限られたスペースに少しでも多くの情報を詰め込むためであったり、少しでも早く情報を届けられるようにするというメディアとしての目的があるからです。ビジネス向けの文章や学術的なレポートのようなものの中では、省略せずに明確に書くことが求められます。
他の表現技法と同じように、状況や目的に応じて使えるようにしましょう。
いかがでしたでしょうか。以上が省略法についての解説です。
上手く使いこなせれば、単調で退屈な文章に張りや余韻を持たせることができ、読者をひきつけられるようになります。
気になったら一度、使ってみてくださいね。