どちらかはっきりしないと、モヤモヤしたり、イライラしたりしてしまう。
明確に線引きしてはっきりさせておかないと気が済まない。
そうした白黒思考の悩みを抱えた人は多くいます。
今回は、なぜ白黒思考が生まれるのか、どう対応していけばいいのかについて解説していきます。
【目次】
白黒思考とは
白黒思考とは、物事を「Aか、Bか」というように二つに分けて考えたり、「0か、100か」というように極端に偏った考え方をしてしまったりする思考のことです。
白黒思考は、「二分割思考」や「全か無か思考」といった呼ばれ方もします。
代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
・善か、悪か
・敵か、味方か
・好きか、嫌いか
・成功か、失敗か
・勝ったか、負けたか
・正しいか、間違っているか
判断が必要なケースが全てきれいに二つに分かれてくれれば、選ぶのは楽になります。
ところが、現実には二つに明確に分けられるものは少なく、どのように対応したらいいのかでトラブルになってしまうことも少なくありません。
現実の世界は、どこかの境界線で白と黒がはっきり分かれるというものではなく、境界線が曖昧でグラデーションの状態になっているということがほとんどです。
「白が70%、黒が30%」というような半分以上は白でも、黒い部分もそれなりにあるというケースや、「白が1%未満、黒が99%以上」という限りなく黒に近いというケースもあります。
私たちの日常生活の中では、こうした白い部分と黒い部分をあわせ持ったグレーな状態のものというのがほとんどです。それぞれのケースにおいて、白い部分と黒い部分はどれくらいあるのかをちゃんと把握して判断を下していくということが、判断ミスを避けるためにも重要になってきます。
しかしながら、白黒思考の人は、こうしたグレーな状態を把握するのが苦手です。そのため、白か黒かという極端な状態に押し込んでしまうことで、自分にとって判断しやすい状態にしています。
そうなってしまうと、「白が70%、黒が30%」という場合には黒い部分を無視して「白」と判断してしまい、「白が1%未満、黒が99%以上」という場合には、わずかにある白い部分を切り捨てて「黒」と判断するということが起こります。
また、白黒思考の人は、クレーというあるがままの曖昧な状態を受け入れるのが難しく、判断しやすいように自分で線引きしようとしてしまうということも出てきます。
白黒思考が生まれてくる背景
白黒思考には、なりやすい人と、そうでない人がいます。
どういったことが原因で白黒思考になっていってしまうのかを解説します。
ASDの人が白黒思考になりやすい理由
白黒思考の原因としてあげられることが多いのが、発達障害、特にASDによる影響です。ASDでは、どうなるのか分からないはっきりしない状況に不安を感じやすかったり、曖昧な言い方をうまく理解することが難しかったりします。
ASDの心理をうまく説明できるのが、進化論をベースに心の働きを探求する「進化心理学」と呼ばれるものです。
通常の心理学では、生まれ育った環境や社会からの影響をベースに、なぜその人がそのような考え方や行動を取るようになったのかを説明します。一方、進化心理学では、自然淘汰の過程の中でどのような思考や行動が生き残っていくのに有利であったのかを検証していくことで、生まれつきの性格の違いをうまく説明することができます。
一般な心理学による説明では、子どもから大人に成長していく段階で、曖昧なものを十分理解できないままでいると白黒思考になりやすいとされています。子どもは10歳くらいになったあたりから、物事を客観的に把握し論理的に考える力を身につけていきます。そうした客観的、論理的に考えられるようになることで、物事の良い面、悪い面をバランスよく考えられるようになり、正確な判断を下せるようになっていきます。
ところが、ASDでは、この論理的な思考の発達が遅れることがあります。進化の歴史の中では、少ないエネルギーで素早い判断が可能な白黒思考がさきにあり、正確な判断ができても時間がかかってしまう論理的思考は後から身についたものです。
進化心理学的な視点を考慮すると、ASDで白黒思考になりやすいのは、進化の流れにうまくついていけていない状態で、論理的思考力の発達が遅れがちになるためであると考えられます。
アダルトチルドレンによる影響
家庭環境の影響という視点で白黒思考を説明できるのが、アダルトチルドレンによる影響です。アダルトチルドレンとは、問題のある家庭環境で育ち心にトラウマを負った人のことです。
躾があまりにも厳しい家庭であったり、常に親の不機嫌に振り回されてしまうような、いわゆる機能不全家庭で育ってしまうとアダルトチルドレンになってしまいます。こうした家庭環境の中では、どっちつかずのグレーな態度をとることができず、白黒思考に染まっていきやすくなります。
親から否定されてばかりで完璧にしないと振り向いてもらえないという体験を繰り返していると、次第に完璧以外に価値はないという考え方に偏っていってしまいます。また、親の機嫌をうかがってばかりだと、自分のどんな言動はOKで、どんな言動がNGになってしまうのかということばかりを考えるようになっていってしまい、それが白黒思考へとつながっていきます。
閉鎖的な組織や集団からの影響
ASDではなく、心にトラウマを抱えたアダルトチルドレンでもない普通の人であっても、白黒思考になってしまうことはあります。
アダルトチルドレンの場合と似ていますが、特定の閉鎖的な組織や集団に属することで、白黒思考に染められていってしまうような場合です。カルト宗教をイメージすると分かりやすいかと思います。閉鎖的な組織や集団の中では、自分たちの考えが一番正しいものであり、それ以外の考えは受け付けなくなります。
カルト宗教は極端な例ですが、それ以外にも、中心人物の考え方を絶対視するような組織や集団であったり、規則やルールを絶対視するような組織や集団といったりしたものの中にいると、そこから影響を受けるということもあります。
特に最近では、SNSによる影響が問題になっています。SNSでは、ユーザーのプロフィールや投稿内容に基づいて、アルゴリズムがタイムラインに表示する情報を選び出します。ユーザーが好みそうな情報ばかりが表示され、逆に嫌がりそうな情報はカットされてしまうことから、思考が極端化していき白黒思考に染まりやすくなります。
進化の歴史から見た白黒思考のメリット
遺伝子レベルで身についてしまっている白黒思考は、もともと生きていく上で役に立っていたものです。どんなメリットがあるのかを知ることで、状況に応じて白黒思考をうまく活用するということもできるようになります。厳しい自然界で生き残っていくのに、白黒思考が具体的にどのように役に立っていたのかを見ていきましょう。
思考のエネルギー節約や判断スピードの向上
まず有利であったのが、複雑な状況判断を「Aか、Bか」という二択の形に単純化することで、思考に必要になるエネルギーを節約し、素早い判断が可能になった点です。
自然界では、いつでも食料が手に入るとは限りません。そのため、飢え死にしてしまうのを回避するためには、なるべく無駄なエネルギーの消費は避けることが重要になります。また、自然界では刻々と状況が変化することに加え、天敵に襲われるリスクもあります。判断が遅れてしまえば、命を落とす危険性もあります。多少の正確さは犠牲にしてでも、素早く判断を下して行動するというのが、生き延びるためには重要であったと考えられます。
このように白黒思考は、厳しい自然環境の中で生き残っていくためには有利なものであったと言えます。
身の安全の確保
自然界の中では、少ない時間とエネルギーで判断を下せることで、命を落とす危険性を少しでも減らすことに役立ちます。未知の生物に遭遇した時に、その生物が自分に危害を加えてくる恐れが無いことを素早く判断するのは、危険を回避するためには非常に重要です。
それに加え、集団の中においても、「敵か、味方か」をはっきりさせておくという白黒思考も、身の安全を守るためには重要だったと考えられます。集団で狩りを行う際に、狩りをする仲間の中に裏切ってくる者がいないかを警戒することも必要になってきます。せっかくの獲物を横取りされたとなれば、また自分でゼロから獲物を探すことが必要になります。そうなると最悪の場合、飢えて命を落とすことになりかねません。法律というものが無い原始的な社会の中で生きていくには、こうした敵と味方の区別というのは重要になります。
未知のものが多く、ルールや法律など身の安全を保障してくれるものがない社会においては、確実に身の安全を確保するためには、曖昧なものを受け入れる余裕はありません。安全かどうかよく分からないというグレーな部分を無くし、白か黒かだけで判断することが重要であったと考えられます。
確実に成果を得る
狩りの判断についても、白黒思考は役に立ちます。「やるならば徹底的にやる、やらないと決めたら一切手は出さない」というように判断を二分化することで、獲物を狩ろうとしたが逃げられてしまったという事態を最小限に防ぐことができます。
もし毎回の狩りで中途半端な努力をしてしまい、獲物に逃げられて食料が手に入らないということになってしまえば、飢え死にしてしまうリスクが高まります。一方で、全力で獲物を狩りに行くことで狩りの成功率が高まり、確実に食料を手に入れることができます。
成功するかどうかよく分からない狩りは避け、確実に成功しそうなものに集中するようにすることで、無駄を省いて効率よく成果を得られるようになります。
白黒思考の問題点
白黒思考は、厳しい自然界で生き残っていくためには有利なものでした。ところが、人間社会、特に今の時代においては不適合を起こしてしまい、いろいろなトラブルの原因になっています。
具体的に、どういったことが問題になるのかを解説していきます。
対人関係でトラブルを生みやすい
社会人になると特に重要になるのが、人間関係です。学校の中での生活に比べると利害関係の対立も多く、衝突を避けるためにグレーな対応を取るというケースも出てきます。そのような中で、相手の立場を考えずに自分の正しさばかりを押し通そうとしてしまうと、対立を生んでしまいます。
会社のような組織の中で働くとなると、全ての仕事を全部一人でやるわけではありません。一人ひとり役割分担があり、互いに協力し合いながら仕事を進めていくことが求められます。大きな組織ともなると、いろんな価値観や考え方の人がいます。感情的に好き嫌いで判断してしまい、「どうしてもこの人とは仕事をしたくない!」となってしまうと、チームプレーをすることができなくなってしまいます。
また、あまり勝ち負けや優劣にこだわり過ぎてしまうと、足の引っ張り合いになってしまったり、他人と比較して落ち込んでしまうということにもなりかねません。
ストレスを抱えやすい
人間関係での摩擦が多くなってくると、それだけストレスを抱えてしまうことも多くなってきます。また、白黒思考が強いと、「本当にこのやり方が一番正しいと言えるのか?」と正しさにこだわってしまいがちです。
ビジネスの世界では、完璧さよりも納期の方が優先されます。そのため、完璧にしないと気が済まないという人にとっては、7割や8割で仕事することに納得がいきません。完璧さを求めるあまり毎回納期ギリギリになってしまい、ストレスを抱えやすくなります。
「そこまで頑張らなくても大丈夫だよ」と言われても効率化と手抜きの区別がうまくつかず、どこかで燃え尽きてしまうということになりかねません。
行動するまでに時間がかかり過ぎてしまう
白黒思考が強いほど、どうしても間違ってしまうことを恐れるようになってしまいます。「これなら絶対大丈夫だ」と確信が持てるまで頭の中でいろいろと考え込んでしまい、行動を起こすまで時間もかかります。
絶対に正しい、完璧にやり切れるという確信が得られないと、やる気のスイッチが入らないというのが難点です。簡単に何かにとりかかるということが難しく、やる気が出てくるまで迷い続けることになります。
スタートラインに立つまでは時間がかかってしまう一方で、一度やる気になると全力で取り組めるというメリットもあります。ただ、その場合には途中で計画を変更したり、引き下がったりということが難しく、融通が利かないという難点も出てきます。
白黒思考の改善方法
白黒思考は、ASDのような遺伝的な要因がある場合であっても、適切な方法によってコントロールすることができるようになります。具体的に、どのような改善方法が有効なのかを解説していきます。
認知の歪みに気づけるようにする
心理カウンセリングで広く一般に行われているのが、認知行動療法と呼ばれる方法です。
目の前の現実を認識し、それを解釈するという認知が歪んでしまっていると、現実を歪めて解釈してしまうということになってしまいます。白黒思考でいえば、現実は白と黒が入り混じったグレーの状態なのに、頭の中では白か黒のどちらかに置き換えてしまう、という感じです。
認知が歪んでいる人は、感情的に物事を判断していることが多いため、感情に振り回されて自分を客観的に見つめるというのが難しくなります。
そこで、認知行動療法では、心理カウンセラーがサポートすることによって、相談者が自分の認知の歪みを客観的に認識できるようにしていきます。自分の認知の歪みを客観的に把握できるようになることで、自分でコントロールすることもできるようになります。
ASDによって白黒思考になっているという場合には、自分を客観的に把握する論理的思考の発達は遅れがちになります。そうなってくると、判断は感情的になりがちになります。感情に飲み込まれてしまうと、自分を客観視するのは困難です。十分な論理的な思考力が備わっていないと、感情をコントロールするのも難しくなります。
心理カウンセラーの助けも借りながら、自分を客観的に把握できるようにします。
背後にある不安と向き合う
白黒思考は、生き残り競争の激しい過酷な自然界の環境に適した思考です。そのため白黒思考の人は、たいてい不安が強くなります。失敗することや裏切られることへの恐怖、完璧ではないことへの不安が白黒思考の根底にあります。
何か新しいことにチャレンジする時にも、失敗が命を落とすことにつながってしまうという無意識の思い込みによってブレーキがかかります。また、自分が上司の立場になると、前例などにこだわって部下のチャレンジを却下してしまったり、裏切られるのを恐れて部下に干渉し過ぎてしまうということも起こります。
こうした行動の背後にあるのが強い不安であり、グレーな状態を受け入れられるようになるためには、不安を取り除くというのも重要になってきます。
また、アダルトチルドレンのように安心できない環境で育った場合には、安心できる環境を確保するということが大事です。
「こんなことを言ったら怒られるのではないか」や「相談したら迷惑だと思われるのではないか」と、心の中でブレーキがかかってしまい、積極的に前に出るというのが難しくなります。
何でも安心して言える、批判される心配がないという心理的安全性が確保された環境を整えるというのも、白黒思考を改善するためには重要になってきます。
多様な経験を積む
白黒思考が強いと、過去に上手くいったことばかりを繰り返してしまい体験が偏りがちになります。そうなってくると、思考の柔軟性も失われていってしまいます。そうならないためにも、いろんなことを体験してみるといいでしょう。
「上手くいかなかったらどうしよう?」「何かトラブルでもあったら…」と不安になる部分もあるかと思います。成功や完璧さを求めてしまう考えは一旦横に置いておいて、まずはある程度体験してみるというのが大事です。白黒思考の人は不安が強いので、実際に体験してみたら、「心配したほどではなかった」ということも多くなります。
また、ユーザーの興味に合った情報ばかりを表示してしまうSNSも、使い過ぎてしまうと白黒思考を強めてしまうことになります。できる限り使用は控えた方がいいでしょう。
いろいろな人と出会い、さまざまな価値観や考え方に触れることで、「そんな選択肢もあったのか!」と気づかされることもあります。決めつけをしてしまうことなく多様な価値観や考え方に触れ知識や経験を増やしていくことで、白黒思考を改善することができます。