私たちが普段使っているSNSには、タイムラインに絶え間なく大量の情報が流れてきます。そのため投稿したとしても、ありふれた内容では全くと言っていいほど注目されません。いとも簡単にスルーされてしまいます。
SNSに限らず、日常でのやり取りでも「話を聞いてもらえない!」と感じている人も多いのではないでしょうか。大勢で集まってしゃべる場ともなると、一部の人に発言が偏りがちになります。相手の注意をこちらに向けてもらうというのも、簡単にはいかないことも多くあります。
そうしたこともあって、たまにSNSでは強引に注目を集めようと、刺激の強い内容を投稿する人も出てきます。ただ、そんなことをすれば、一時的に閲覧数は稼げても、信頼は失われていきます。
「注目してもらいたいけど、悪目立ちはしたくない」、そうは思いませんか?前回は相手に覚えてもらう方法として、反復法について紹介しましたが、「繰り返し似たような内容の投稿をするのも面倒くさい!」という人も多いはずです。
そんな時に役立つ表現方法がが、倒置法です。
倒置法は、ここぞというタイミングで使えば、周囲の注目を引きつけることができます。
今回は、簡単に使えてインパクトのある表現ができる倒置法について、くわしく解説していきます。
【目次】
倒置法とは
倒置法とは、小学校や中学校の国語の授業で習う表現テクニックの一つです。
すでに知っている人がほとんどだと思いますが、ここで復習しておきましょう。
倒置法では、一つの文の中で語順を入れ替えて、通常とは並び方の異なる文を作ります。このように、あえて語順を通常とは異なるものにすることで、印象を強めたり、リズム感を出したりすることができます。
例えば、次のような一文があったとしましょう。主語と述語が並ぶシンプルな一文です。
桜の花が、咲いたよ。
次に、この語順を入れ替えてみましょう。
咲いたよ、桜の花が。
言葉の並びを入れ替えただけなのに、一気にドラマチックな感じになったとは思いませんか。
それではもう一つ、他の文も見てみましょう。
彼女は、そのリンゴを食べた。
主語、目的語、述語の順に並んでいます。こんどは目的語と述語の語順を入れ替えてみます。
彼女は食べた、そのリンゴを。
いかにも、「そのリンゴ」を食べたら何かか起こるという緊張感が出てきます。倒置法を使えば感情の高まりをうまく表現でき、受け手の注意をひきつけることができます。そうしたことから、小説やドラマなどの中では、ここぞというタイミングを狙って使われることが多くあります。
このように、語順を入れ替えるという表現方法が倒置法です。
ちなみにですが、倒置法と混同されやすいものとして、文末を体言(名詞)で終わらせる「体言止め」があります。体言止めとは、文末を名詞で終える表現方法です。
たとえば、「今年も咲いたよ、桜の花」というように文末を花という名詞で終えるのが体言止めです。体言止めも、倒置法と同じように余韻を出したり、リズム感を出したりするのに役立ちます。
倒置法の効果
倒置法は語順を入れ替えるだけという手軽さでありながら、以下のような効果があります。
後ろの語句を強調できる
倒置法が使われる目的は、特定の語句の強調です。とりわけよく使われるのが、しつこさ、わざとらしさ、説明っぽさをを出さずに強調したい時です。
倒置法で強調されるのが、後ろにくる語句です。
たとえば、「彼女は食べた、そのリンゴを」という文においては、「そのリンゴを」が強調されます。
こうすることで、「彼女は、そのリンゴを食べた」という文に比べると、リンゴが何か重要な意味を持っているということを暗に示すことができます。
倒置法は小説やドラマでよく使われることは、先ほど少し触れました。そうしたものの中ではハッキリ表現し過ぎてしまうと、受け手の興味が薄れてしまったり、押しつけがましくて嫌な感じにさせてしまったりということになりかねません。
倒置法は、たんに特定の語句を強調するというだけでなく、なるべく相手に対して不快な気持ちを生じさせないように強調できるというのもポイントです。
どうして後ろの語句が強調されるのかは、後ほど詳しく説明します。
躍動感やリズム感を出せる
倒置法は、特定の語句の強調だけでなく、文章が単調で退屈なものになるのを避けるためにも使われます。普通に表現していたのでは、文末で「~です」や「~ます」が続いてしまうなど、どうしても文章全体が単調になりがちです。倒置法を使えば、変化をつけることで躍動感を出すことができます。
また、リズム感を出しやすいのもポイントです。とりわけ日本語のラップにおいては、倒置法を使うことで脚韻を踏みやすくなるということで頻繁に使われます。
ためしに一つ作ってみると・・・
やっと来たぜ東京
ずっと待ってたんだ、この時を
「東京」「時を」で脚韻を踏んでいて、二つ目の文が倒置法になっています。二つ目の文を普通の語順で「この時をずっと待ってたんだ」にしてしまうと、きれいに脚韻を踏めません。この例のように倒置法によって語順を入れ替え、脚韻を踏みやすい状態を作り出すことができます。
情緒的な表現ができる
倒置法は、文に余韻が生まれるため、情緒的な表現ができるようになります。
通常の語順の「桜の花が、咲いたよ」であれば、これで一文が完結しています。受け手としては「あぁ、桜が咲いたのか」程度の感覚でしかありません。これでは桜の花が咲いたという情報の伝達だけで終わってしまいます。
一方で、倒置法を使った「咲いたよ、桜の花が」の一文はどうでしょうか。「桜の花が」の後ろにまだ何か言葉が続くような感じがして、受け手はいろいろと想像を膨らませることができます。こうして想像を膨らませることによって、受け手には、いろいろな感情がわきあがってくるようになります。
通常の語順だと、どうしても情報伝達が主な目的の説明文になってしまいやすくなります。余韻を持たせて感情が出やすいようにしたい時にも、倒置法は役に立ちます。
倒置法を使った表現例
それでは、倒置法を使った表現例を見てみましょう。
例1 海賊王に、俺はなる!
これは、元ネタを知っている人も多いでしょう。『ワンピース』の主人公ルフィの決め台詞であり、この作品のテーマを表現している一言です。
テレビで放送されていたアニメのオープニングでは、必ずと言っていいほど流れていました。
通常の語順にしてしまうと、「俺は、海賊王になる!」となりますが、これだと決め台詞としては、ちょっと弱い気もします。
やはり倒置法を使って「海賊王に、俺はなる!」とした方が、主人公の決意の強さが伝わるようになります。
例2 見せてあげよう、ラピュタの雷(いかずち)を!
これも、知っている人は多いはずです。ジブリアニメ『天空の城ラピュタ』で、ムスカ大佐が言い放ったセリフです。
もしも通常の語順で、「ラピュタの雷を見せてあげよう!」となったら、どうでしょうか?なんだかサラっと流れてしまったような感じになってしまい、ラピュタの雷がすごいものだということが伝わりにくくなります。
これからすごいものを見せてやるぞという高揚感や緊張感を強調する上でも、倒置法がうまく使われています。
例3 見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!
これは知る人ぞ知る、『機動戦士ガンダム』のシャアのセリフです。若い世代になると、知らない人も多いかな。(ちなみに、この記事を書いているのは40歳過ぎたおじさんです。世代感丸出しで、すみません)
ライバルであるシャアが、主人公のアムロが搭乗するガンダムと初めて対戦する際に、シャアが言ったものです。連邦軍のモビルスーツであるガンダムは、強力なビームライフルや、ちょっとした攻撃ではびくともしない頑丈な装甲を備えています。そんな手ごわい敵に対し、恐れることなく戦いを挑んでいこうとするシャアの高い戦闘意識が表現されています。
アニメでシャアがこのセリフを言っているシーンを見たことがある人なら知っていると思いますが、落ち着いた感じでしゃべっています。暑苦しさというものは、ほとんどありません。暑苦しさを出すことなく感情の高まりを表現できるのも、倒置法の大きな特徴です。
例4 認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを。
これも先ほどと同じシャアのセリフです。(シャアというキャラクターは、名言が多いですね。)
部下を引き連れて、内偵に赴いたシャア。そこで手柄を立てようと焦った部下が飛び出て行ってしまい、その部下が突然動き出したガンダムに撃沈されてしまいます。そのシーンで言ったセリフです。
このセリフ、勝手に飛び出していった部下に対して言ったものなのか、それとも、勝手に行動するような人を選んでしまった人選ミスに対して言ったものなのか、解釈が分かれているようです。ネット上でもよく見かける名言になっていますね。
ちなみにですが、シャアというキャラクターは仮面をかぶっていて落ち着いた印象があります。そのため、表情やリアクションで感情を視聴者につたえるということには制約があります。倒置法を使えば、落ち着きつつもオーラはあるという感じを視聴者に伝えることができます。
例5 彼女はまだ知らない、『愛してる』の意味を。
これは、この記事を書くためにリサーチしている中で、たまたま見つけたものです。『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』という同名のライトノベルを原作としたアニメのものです。劇場版の作品のタイトルのようですね。
主人公の少女ヴァイオレット・エヴァーガーデンは、感情を失ってしまっているという設定です。そんな主人公が感情を取り戻していくというのが大きなテーマになっているようです。
「愛してる」という言葉がどういう意味なのかを、主人公が必死に探し求めていくというのが倒置法を使ってうまく表現されていますね。余韻を感じさせる一文が「一体、どうなっていくんだろうか」と、本編への興味をかきたてます。
例6 これですよね、あなたが欲しいって言ってたのは?
倒置法は、後ろに来る語句を強調する技法です。それを日常生活で使うのであれば、このように確認のための念押しに使えます。
通常の語順で「あなたが欲しいって言ってたのは、これですよね?」でも、もちろん意味は通ります。
このように倒置法を使うことで、「そういえば、以前あなたは、こういうの欲しいって言ってませんでしたっけ?」と確認する意味合いが強くなります。「私は、あなたがこういうのを欲しいって言ってたことをちゃんと覚えてましたよ!」ということをさりげなくアピールすることもできます。
例7 知りませんよ、どうなっても。
これも日常のコミュニケーションの中で使える表現です。普段の生活の中で言われたら、ドキッとする言葉ですね。
もちろん普通の語順で「どうなっても知りませんよ」でも言いたいことは伝わります。ただ、相手に対して警告しておきたいのであれば、ちょっと弱いかもしれません。
そこで倒置法を使って「どうなっても」を後ろに持ってくると、このままいくと大変なことになるかもしれないぞということを暗に示すことができます。「どうなってもって、具体的にどういう状態なんだろうか?」と受け手はいろいろと頭の中で想像をめぐらせることで、「やっぱり、やめとこう」とブレーキがかかりやすくなるんですね。
倒置することで印象に残りやすくなる理由
語順を入れ替えただけで、どうして印象に残りやすくなるのか?疑問に感じる人も多いかと思います。
ここでは倒置することで何が起こるのかを、具体的に解説していきます。
受け手の脳が無意識的に異常事態として認識する
私たちの身の回りのものは、基本的に時間と共に変化するものであふれています。毎日変わる天気のほか、周囲の人や日常の風景も、長い時間をかけて少しずつ変わっていくことが多いものです。
ただ、そうした変化に対して毎回反応していたのでは、脳は大量のエネルギーと時間を消費してしまいます。そうした時間とエネルギーの大量消費を防ぎ、生き延びていくのに有利になるように、私たちの脳は、誤差の範囲内程度の変化であれば無視するようになっています。同じようなものがずっと続くという状況では、注意はどうしても散漫になりがちです。
言葉の並び方が通常の語順であれば、特に大きな変化は無いとして相手にスルーされる可能性が高くなります。そこで、倒置法では、語順を入れ替えをすることで、通常とは異なった状態を作り出します。
そうすれば、情報の受け手の脳は、「ん?なんだかいつもと違う!」と異常なものとして認識するようになります。そうなってくると、身の安全を守るために警戒するようになり、注意が向くようになります。
受け手の「知りたい」を刺激する
倒置法を使うと、目的語にあたる「~を」の部分が後ろに来ることが多くなります。こうすることで、受け手の興味を引きつけることができるようになります。
たとえば、「彼女は食べた、そのリンゴを」の一文を見てみましょう。「彼女は食べた」という情報を受け取ると、受け手の脳はすぐさま無意識的に「何を食べたのか?」と答え探しをするようになります。こうなることで受け手の注意は、次にくる「そのリンゴを」の部分に向くようになります。このようにして、受け手の注意を強調したい後ろの部分に向かせることができます。
また、人間には不完全なものに対しては注意が向きやすい傾向があることが知られています。「彼女は食べた」というところまで情報を受け取れば、「いったい何を食べたんだろう?」と続きが気になります。こうして一度気になるようになると、答えが得られるまで注意力が向き続けるようになります。これは、専門的には「ツァイガルニク効果」と呼ばれるものです。テレビのドラマやバラエティー番組なんかで、一番盛り上がる直前にCMが入って中断され、続きが気になってしまうというアレですね。
こうした心理的な効果により、受け手に注意を強く引きつけられるようになります。
感情やリズム感により記憶に残りやすい
倒置法では、情緒的な表現ができるため受け手の感情に働きかけやすくなります。感情がともなう情報は、感情がともなわない情報に比べると記憶されやすいということが脳科学的にも知られています。そのため、通常の語順でさらっと表現してしまうよりも倒置法を使った方が、相手の記憶に残りやすくなります。
他にも、語順がいつもと異なるわけですから、そうした「いつもと違う」というものも、記憶に残りやすくなります。
さらに、リズム感という要素も、記憶に残りやすくするという点ではプラスに働きます。言葉の響きの良さを気にする人も一定数いるため、そうした人たちの注意を引きつけるのにも役立ちます。
倒置法の活用方法
倒置法の仕組みまで理解できたところで、具体的にどんな場面で使えるものなのかを見ていきましょう。
決め台詞的な使い方
倒置法は、ドラマやアニメなどにおいては、感情が高ぶるよなシーンで使われることが多いです。
日常のやり取りにおいても、そうした感情が高ぶる場面を狙って使うのが効果的です。
使いやすそうな言い回しとしては・・・
「この歳になってわかったんです、○○○ということを」
「今まで知りませんでした、×××だったなんて」
「大きな声じゃ言えませんよ、△△△だなんて」
・・・あたりでしょうか。
何かの広告なんかで、これと似たような言い回しを見たことがあるという読者の方もいらっしゃるかもしれません。こういった表現をされると、「えっ?なになに?」と思わず耳を傾けたくなってしまいませんか?
いかに倒置法が、相手の注意を引きつけるのに有効であるのかが、おわかりいただけるかと思います。
SNSでの出たしの一文やキャッチコピーとして
SNSにおいては、情報がタイムラインを滝ののように流れていきます。見る側としては、丁寧に全部に目を通すなんてことはやってられません。文章の投稿については、多くのユーザーは、最初の一文を見て残りを読むかどうかを決めます。下手をしたら、一文すら読まずに最初の文節のところまでしか見ない人だっているでしょう。
倒置法は、そんなユーザーの注意をひくのにも便利です。書き出しの一文を倒置法を使った文にすれば、読まれやすくなります。最初の文節までしか読まれなかったとしても、先ほども少し触れたように、ツァイガルニク効果により続きが気になるようになります。それによって、一文全てが読まれやすくなります。
また、倒置法を使うと感情に訴えかける文になりやすいというのもポイントです。多くのユーザーは、パッと見て何の感情もわかなければ、興味が無いものとしてスルーしていきます。書き出しに感情をかき立てる一文を持ってくることで興味を持ってもらえるようになり、相手からの反応を得られやすくなります。
キャッチコピーで倒置法を活用する場合も、これと同様です。情報があふれる街中において、スルーされないようにするためには、パッと見てちょっと気になったり、感情が出てきたりするということが重要になってきます。一瞬で相手の心をつかみ取れるようにするためにも、倒置法は非常に有効なツールになります。
確認や警告をする場面で
確認や警告をするような場面でも、相手にスルーされては困ります。かと言って、あまり相手に強く迫り過ぎて反発を招いてしまっても困ります。
警告する場面においても、「~しないでください」という形で言っても聞かない人は一定数います。立場上や相手との関係もあって、直接言えないというケースもあるでしょう。
倒置法を使った表現なら、語順の入れ替えだけで強調できるようになります。「知りませんよ、どうなっても」という言い回しは、警告としては使いやすいですね。
倒置法を使う時の注意点
語順を入れ替えるだけで簡単にインパクトのある一言を作れてしまう倒置法ですが、もちろん使うに当たっては注意点があります。
使うタイミングや頻度には注意する
倒置法は、ここぞという時に使うものということからもわかるように、使い過ぎてしまうと効果が薄れてしまいます。頻繁に使うと受け手も慣れてしまい、「またこれか」となってスルーされやすくなっていきます。
そのため、どのタイミングでどう使うのかは意識しておくことが重要です。
また、むやみやたらと使ってしまうと、頭が悪い人であるかのような印象を持たれてしまうこともあります。そのあたりも注意が必要です。
強調によって上から目線にならないようにする
倒置法には、特定の語句を強調する働きがありますが、この強調が、内容によっては相手に対して上から目線のような印象を与えてしまうこともあります。
ムスカ大佐のセリフが、いい例ですね。倒置法を使えば、過激な言葉を使わなくても周囲の注意を引くことはできますが、ネガティブな印象を持たれてしまうのは避けたいところです。
やはり相手に与える印象には、注意した方がいいでしょう。
形式的なものには向かない
詩などにはよく使われる倒置法ですが、客観性が重視されるビジネス文章や形式ばったものには向きません。
論説文や説明的な文章では、感情を入れずに事実をありのまま記述することが求められます。したがって、こうした文章の中では、倒置法を使った表現は出番がありません。
いかがでしたでしょうか?
倒置法も、使い方によっては、SNSや日常会話の中で使えるものだということが、お分かりいただけたかと思います。
こうしたことも踏まえ、倒置法を有効に活用していきましょう。うまく使いこなせれば、あなたの注目度はきっとアップするはずです。